国際税務

海外在住者が日本のFX口座で利益を上げたら税金はどうなるか

海外在住でFX取引をされている方、結構多いと思います。シンガポールとかマレーシアですと日本に比べてこういった金融取引の利益に対する税率も低く、かなり投資家が優遇されています。ですが、もし海外に住んでいるあなたが日本のFX口座を使って利益を上げると・・・ちょっと困ったことになるかもしれません。

以下のAさんを前提としてお話します。

  • Aさんは日本のFX口座を保有するサラリーマン
  • 数年前に海外転勤となり日本には居住していない
  • 転勤後も日本のFX口座で取引を継続し、転勤して初めて年間利益がプラスになった

さっそく結論からいきましょう。

海外在住(非居住者)でも日本のFX口座の利益は申告が必要

Aさんは、総合課税の雑所得としてFX口座の利益を申告納付しなければなりません。

日本にはもう住んでいないし、日本国内で利益を上げたわけじゃないのに、日本で納税しなきゃいけないの・・・? 納得いかん!!

そうおっしゃりたい気持も、わかります。

以下でこのような結論になる理由を説明していきます。

非居住者が日本のFX口座の利益に課税される理由

日本の所得税法は、基本的に日本に居住し、日本国内で給料をもらったり商売や投資をして儲けた人に課税するために作られた法律です。ですが、日本に居住していない人(非居住者といいます)にも課税される場合があります。それは、非居住者が国内源泉所得を得た場合です。

国内源泉所得って?

一見難しい言葉ですが、簡単にいうと日本国内で生じた所得ということです。非居住者が日本国内に何らかの事業や資産を持っていて、そこから利益が出た場合に、国内源泉所得に該当する場合があるのです。じゃあ何でもかんでも日本国内で発生したら国内源泉所得か、というと、実はそうでもありません。国内源泉所得は所得税法161条で列挙されているものに限定されているのです。

全部書くと大変なので以下に一部を記載します。興味の有る方は所得税法を実際に確認してみて下さい。

  1. 国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得
  2. 国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの
  3. etc...

つまり、所得税法161条で列挙されているものに該当しなければ、国内源泉所得にはあたらないので、課税されることもないということです。

FXの利益は国内源泉所得なの?

所得税法161条の条文には「FX取引による利益は。。」なんていう言葉は出てきません。例からもお分かりの通り「国内にある資産の運用又は保有により・・・」とかかなり抽象的な書き方がされていますよね。でも、この書き方だとFX取引が国内源泉所得に該当するのかどうか、はっきりしません。

そこで、所得税法のさらに具体的な適用を定めた所得税法施行令という規則(行政が決めた法律の具体的な運用ルール、という感じで理解して下さい。)を参照します。。。ですが、所得税法施行令にも、やっぱりFXの言葉は出てきません。

そうなんです、FX取引は税法や施行令に明文化されていないので、条文の中からそれっぽい部分を解釈して、国内源泉所得に該当するかどうか判断する必要があるんです。まあ、世の中のあらゆる経済活動を列挙して法律や政令を作ってたらきりがないので、わからなくもないのですが、じゃあどうやって判断すりゃいいんだよ、って感じですよね。

それで、実はFX取引が国内源泉所得に該当するか否かの判断で、国税庁と非居住者がモメた事例があったんです。

非居住者がFX取引の利益に課税されてモメた事例

こちらがその事例です。国税不服審判所というのは納税者が国税庁の課税処分に対して納得行かないときに、意義を申し立てて審判をしてもらう裁判所のような機関です(しかし裁判所ではなく、あくまで国税庁内に設けられた審判所という位置づけ)。国税不服審判所で出た審判の結果は裁決と呼ばれます。

で、この裁決事例はものすごい分量で全部読むのは大変です。幾つか争点があるのですが、重要な部分だけかいつまんで解説すると、国税庁の立場は以下のようなものです

国税庁

  1. FX取引では勝てば差金決済で利益をもらえる契約上の権利があるのだから、この権利は国内にある資産っていえるでしょ?
  2. で、その権利を行使することも運用又は保有に該当するんだよ。そして、この権利行使は資産の譲渡とは違うよ!

それに対して、課税された非居住者の人は以下のような言い分です。

非居住者さん

  1. FX取引を行う上で国内にある資産なんてものは存在しないぞ!そもそもFX取引は損失が出る場合もあるし、価値がマイナスにもなり得るんだから、「資産」なんて呼べない!
  2. FX取引は契約上の権利を行使してるんじゃなくて、権利を譲渡をしているんだ!だからFX取引の利益は譲渡により生じたものだよ!

どうでしょうか?ちょっと両者がどういう戦いをしているのかわかりにくいかもしれないですが、要は国税庁は所得税法161条にある国内にある資産の譲渡により生ずる所得に該当させたくなくて、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得、の方に引っ張っていこうとしています。

逆に非居住者さんは国内にある資産であることを否定し、かつ譲渡により生ずる所得に該当させたいのです。国内にある資産の部分を否定できれば、そもそも国内源泉とは言えなくなりますし、そこで負けたとしても、譲渡により生ずる所得に該当させられれば非居住者さん的にはOKです。なぜなら、国内にある資産の譲渡による所得は、所得税法施行令で具体的に定める所得に範囲が限定されていて、その中にFX取引が列挙されていないからです。

このような応酬が繰り広げられた結果、結論にも述べた通り、非居住者さんの審査請求が棄却されることとなりました。

個人的には国税庁側の理屈に多少無理がある気もしましたが、結果は結果です。

海外在住のFX投資家がすべきこと【対策】

あなたが日本に居住していない非居住者で、FX取引を行っている方であれば、やるべきことは唯一つ、日本のFX口座は利用しないこと、です。

なぜなら、上で述べたような日本での課税リスクはもちろんですが、忘れてはならないのは居住国でも課税される【二重課税リスク】があるからです。

日本に居住している方であれば、日本で行った株取引であれ、海外口座で行った株取引であれ、全ての株取引の利益に課税がされます。そう、日本からみて海外口座で上げた利益分も日本に納税するのです。

そして通常はその海外口座のある国と日本が結ぶ租税条約に基づいて、海外では課税されないか、または海外で課税された場合は日本で重複して課税しないよう、外国税額控除という仕組みで日本に支払う税金を軽減できます。

ですが、上で述べたのは株取引の例であってFX取引では有りません。FX取引について明示的に日本と租税条約を結んでいる国は、私の知る限りでは存在しません。

つまり、FX取引は租税条約上で課税国を調整する対象外となってしまう可能性が高いのです。

そして、非居住者が外国税額控除を受けられるケースは限られていますので、日本に居所を持たない非居住者の場合は外国税額控除による税の軽減ができません。

ということで、日本のFX口座で生じた利益には海外でも課税され、日本でも課税されてしまう可能性が高いのです。

(具体的な課税判断は各国の税制および租税条約を検討する必要がありますのでご留意下さい。)

海外に住みながらFX投資をするのであれば、現地のFX業者を使うのが税務上は最もシンプルです。慣れ親しんでいるからといって、今まで使っていた日本の口座で取引を続ける、なんてことはやめておきましょう!

もちろん、海外に行けばその国での納税義務は果たさなければなりませんので、その点も注意して下さい。

FXについては分かったけど、暗号資産(仮想通貨)取引だと税金はどうなる?

これは私も気になっている論点です。機会を見て記事を書きたいと思います。

 

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